3分で読めるショートショート自作小説|第十九作品目『子守歌』

3分で読める自作ショートショートです。通勤時間などすき間にサクッと読めちゃう、日常系の超短編ストーリー。

今回のテーマは、「”子守歌”から始まる、親子のストーリー。主人公の女性が子供の頃に両親が歌ってくれた歌の秘密を知る」お話です。両親はどうして1日中働き詰めだったのか?その真相に心が温まる1作です。

子守歌

私は小さいころに両親に子守歌をよく歌って貰っていた。

ただ、私の家は仕事が忙しい両親だったこともあり、【子守歌】が終わると直ぐに仕事に向かっていたと思う。

貧乏だとは思わなかったが、とにかく両親は朝から晩まで働いていた。

両親が居ない時間が多かったので私は寝る前の子守歌が楽しみで仕方なかった。

「あーあ、もっと両親と居られたら良かったのにな」

二十歳を超えても私はそう思う。

そう思ったら、実家に帰りたくなった。

続き:数年ぶりの実家

山梨の実家に帰ってきた。

両親は、代々受け継がれてきたブドウ園の仕事をしていた。

「おかえり、急に帰ってきてどうしたの?」

「あの子守歌のことを考えていたら、急に帰りたくなって」

「子守歌ねー」

母は思い出そうとしてくれてるみたいだった。

「あの子守歌はお父さんが作った歌なのよ」

母はサラッと言ってきた。

「え、あれ!お父さんが作ったの?お父さん元歌手?」

母は微笑んだ。

「そんなわけないでしょ、音楽大に通ってたのよ」

続けて母は言った。

「でも、おじいちゃんが倒れて中退して農園に戻ってきたのよ」

「そうだったんだ」

続き:子守歌の真相

今晩は実家で泊まることにした。

父が帰ってきたので、気になっていたことを聞いてみた。

「子守歌のことだけど、歌詞と曲調が少しずつ違ってたよね?」

「あー、そのことか。そうだよ、ちょっとずつ変えてた」

「歌手を諦められなかったんだ。お前が気に入ってくれたら売れるかなって期待も込めて作ってた」

「その作曲で夜も一緒にいてやれず、済まなかった。母さんにも手伝って貰ってたから寂しい思いをさせてしまった」

父は日本酒を一口飲んだ。

「もがいてたんだね。そういうのって大切だよね、私ももっともがいてみようかな?」

「最近、うまくいってないのか?」

父は又日本酒を一口飲んだ。

「仕事に対してやる気というか遣り甲斐が持てなくなっていたの」

「4年が一番初めの倦怠期だからな」

「でも、お父さんの話を聞いて出来ることからもがいてみようと思えた」

「そうか」

私は父の空のさかづきに日本酒を注いだ。

「ありがとう。お前も一杯飲むか?」

父は私にさかづきを渡してくれて、注いでくれた。

「ありがとう」

父の青春を初めて知った1日だった。

お終い

※この物語はフィクションです。