3分で読めるショートショート自作小説|第二十四作品『落とし穴の向こう側』

3分で読める自作ショートショートです。通勤時間などすき間にサクッと読めちゃう、スリラー系な超短編ストーリー。

今回のテーマは、「主人公の商社マンの中年男性は、令和の時代に世間の風と合わなくなっていました。そんな時出張先で見掛けたのは”大きな落とし穴”」の話です。さて、”落とし穴の向こう側”はどうなっているのでしょうか?読めばヒヤッとする一作です。

落とし穴の向こう側

ある田舎町に大きな落とし穴がありました。

その落とし穴は覗くとすごく深くとてもではないけどその先は見えませんでした。

そんな穴のことなど知らない、一人の営業マンが町にやってきました。

「ここは田舎だけど、公共設備が行き届いていていいね」

「課長に命令されたときはどうなることかと思ったけど」

猪瀬幸生いせゆきおは、東京から田舎の営業に行くことを命じられました。

猪瀬は、50歳の男で令和の今、少し世間の風と合わなくなってきたのでした。

そんな日々が鬱陶しくなってきたこの頃、田舎の風景に癒されようと考えていました。

「今日は早めにホテルに行くことにするか」

暫く歩いた先にホテルが見えました。

「やっと着いたぞ、ゆっくりしよう」

フロントでチェックインの手続きを終えると部屋に案内されました。

部屋に入ると、綺麗なベッドの奥には茶の間がありました。

机の方を覗くと、注意書きが置かれていました。

【この先の道にある大きな落とし穴に気をつけてください】

「なんだこれ?落とし穴?」

猪瀬は穴を塞がないことを疑問に思いました。

「そんなにお金がない町なのか?明日の商談が心配だ」

その日の夜、猪瀬は夜の町を少し歩きたくなりました。

「夕食を食べたら少し歩きたくなったな」

続き:落とし穴に落ちたら……

少し歩いていたら、猪瀬は町の風景に見惚れてしまいました。

ズルッ

「あー、助けてー」

なんと大きな落とし穴に落ちてしまいました。

「あー、助けて~助けて~」

猪瀬の助けを求める声は誰に聞こえることもなく穴の中に落ちてしまいました。

ドン

「いてて」

猪瀬は尻もちをついてしまいました。

ふと見まわすと真っ黒の中に一筋の光が見えました。

「なんだ?あれは」

猪瀬は夢中になって光の方に歩き始めました。

歩いていると段々光に吸い込まれるような感覚になりました。

「わぁー」

光に包むまれると眩しすぎて目を固く瞑ってしまいました。

暫くして目を開けると黄金に輝く宮殿がありました。

「なんだこれ?」

猪瀬が首を傾げていると

「お客様ですね。ようこそおいでくださいました」

ネズミの顔をした人ぐらいの身長の生き物が出てきました。

「はぁ、あのここは?」

ネズミに尋ねると

「ここは旅人に至福のひと時を提供する場所です。さあさあお入りください」

「そんな、急に入っても大丈夫なのか?だって、ここは」

猪瀬が言いかけたその時

「あ、大丈夫です。何の問題もございません。さあ、お入りください」

ネズミは、真顔で猪瀬の言葉を制止すると、微笑みながら誘導してきました。

「じゃあ、失礼して」

猪瀬は宮殿の奥にいざなわれました。

宮殿の奥に着くと、金色の縁のキングベッドが置かれていました。

「さあさあ、ここにうつ伏せで寝てください」

ネズミはニコッと笑いながら言いました。

「え、どうして?今から何をするの?」

猪瀬は戸惑いネズミに聞きました。

「今から美女によるマッサージをさせて頂きます。ご安心くださいませ」

「え、はぁ~、じゃあ失礼して」

猪瀬はネズミに言われるままベッドに寝ころびました。

「それではごゆっくり」

暫くすると、女の人の声が聞こえてきました。

三人ぐらいの女性がやって来たようでした。

「猪瀬様、肩が凝ってますね。私達がほぐしてみましょう」

女性達は、三人がかりで身体のコリを解してくれました。

猪瀬は気持ち良くなって寝てしまっていました。

目を覚ますと、目の前には豪華な食べ物が黄金の机に置かれていました。

「あの、これは?」

猪瀬が一人の女性に尋ねました。

「こちらは猪瀬様の為にご用意いたしました」

「え、ほんとに?」

「はい、左様でございます。ゆっくりと召し上がりくださいませ」

「お酒もワインから日本酒、ビール何でもお持ちいたします。何なりとお申し付けくださいませ」

「こんなにして頂いて悪いね」

この時の猪瀬はもう怪しむことはすっかりしなくなっていました。

「いえ、とんでもないことでございます」

この夜、猪瀬は豪華な料理と美女のダンスですっかりご機嫌になっていました。

「猪瀬様、今日は楽しんで頂けましたか?今日はもうお帰りになってください。また気が向いたらお越しくださいませ」

ネズミは深々とお辞儀をして、出口まで見送ってくれました。

「色々ありがとう、また来るよ」

出口に着くと、光が猪瀬を包み元の世界に出ていました。

「朝だ、今日はいい日になれそうだ」

猪瀬は気分よくホテルに戻りました。

続き:二度目の落とし穴

猪瀬は、商談を終わらせてホテルに戻ってきました。

「今日は気分が良い。またあの落とし穴にハマってみようかな」

猪瀬は、あの落とし穴に向かって歩き出しました。

暫く歩くと大きな落とし穴がありました。

「これってこんなに大きかったんだな」

「いや、落ちるの怖いな。どうしよう」

猪瀬は少し悩みましたが、あの豪華な接待が忘れられなくて意を決して飛び込みました。

落ちた瞬間、光に包まれました。

扉が目の前にありました。

猪瀬は扉のノブに手を掛けて開けました。

「ようきたな、今日からお前はネズミだ。俺と交代だ」

「え、ど、どういうこと?」

「やっと出れる、ありがとうよ。せいぜい頑張りな」

「え、え、」

「俺が出るまで十年掛かった。長かった」

「え、え、それは……つまり……。」

「そうだよ、お前は次の客が来るまでネズミだ」

「じゃあな、ネズミ」

さっきまでネズミだったのにみるみるうちに中年の男の姿になっていきました。

猪瀬が自分の顔触ると、ネズミの様になっていました……。

お終い

※この物語はフィクションです。