3分で読めるショートショート自作小説|第二十一作品目『ヴィランの人々』

3分で読める自作ショートショートです。通勤時間などすき間にサクッと読めちゃう、昔話系の超短編ストーリー。

今回のテーマは、「一冊の児童書に書かれている物語の裏側の話です。今回の主人公は、“ヴィラン”のオオカミと大魔王です。物語の勇敢な主人公についてオオカミには不満があるみたいです。正義って一個じゃないと思わせてくれる」お話です。読んだ後は、他者のことを考えたくなる一作です。

ヴィランの人々

物語は人々に勇気をくれるものだと思う。

勇敢な主人公には元気を貰えるし、健気なヒロインには応援したくなったり、癒されたりするだろうと思う。

では、敵役はどうだろう?

敵役にはみんなどういう感情を抱くのだろう。

嘆き声が聞こえてきた。多分ヴィラン達の話声が聞こえてきたのだろう。

「今日も散々だったぜ。ちょっと期待してる人が多いからって主人公ってのは権勢を振るってくるね。困ったもんだ」

「えーまたかい?民衆の気持ちを盾にして嫌なもんだねー」

ある物語の敵役の二匹はアジトで一息付きながら主人公について話し始めた。

ある物語の主人公は、この物語上の流れでは町の人々に慕われて、食料や人々の生活の安全を確保するために敵役からそれらを守る役割をしていた。

格好は、短髪の青年で体格が良くずっしりとした印象を持てた。

笑顔も爽やかで見るからに好青年だった。

ただ、敵役から見た主人公の印象はかなり違っていた。

「あいつさー傲り高ぶってんだよな。それしか正義じゃないって思ってんだろうな」

「そうよ。私らだって食べ物いるし、食料確保や自分の身を守るためなら攻撃するに決まってんのに」

「あいつのは全然公平性がないよな。あんなに俺らの陣地を奪った町の人間にばかり相手して。最悪だぜ」

どうやら、敵役の二匹は物語の裏の側面を訴えてるようだった。

この物語は、小児向けの児童書に書かれている話であった。

元気はつらつの主人公がオオカミを子分に従えた大魔王に戦いを挑むという物語だった。

大魔王は居場所を追われたオオカミを子分にして、養っていた。

つまり敵役の二匹はオオカミだった。

「今夜もあいつに追いかけられて命からがら帰る羽目に何のかな」

オオカミの二匹は憂鬱な気持ちになりながらも食料を求めて出掛けた。

続き:勇敢な主人公の裏の顔

オオカミの二匹は、人間の畑にやってきた。

「悠々と畑をしてるけど、これは元々俺たちの住処だったのに……。悲惨なものだぜ」

愚痴を吐き捨てて、オオカミ達は畑に植わっている野菜を食べ始めた。

暫く漁っていると、遠くの方から声が聞こえてきた。

「お前たち何をしている!」

声は段々近づいてきて

「げっ!あいつがこっちへやってくる」

オオカミの二匹はそそくさと逃げた。

しかし、

【バチン】

って!な、なんだ」

一匹のオオカミの後ろ脚に小さめの矢が刺さった。

オオカミは歩くことが出来きなくなった。

「もう観念しろー。毎晩毎晩畑を荒らしやがって」

勇者の様な出で立ちをした主人公がオオカミに語り掛けた。

しかし、その様子は説得しているように見せかけて脅しを掛けた口調になっていった。

「こんなことを繰り返しているから、仲間は次々と灰にさせられたんだ。分かっているのか?大人しくひっそりと暮らせ。この町にのこのことやってくるからこんな目に合うんだ」

最後にどすの利いた声で

「このままだと全滅するからな。覚悟しとけよ」

勇敢な主人公が極悪人に見えた瞬間だった。

続き:正義と正義

怪我をして歩けなくなった一匹が出て、途方にくれたオオカミの二匹は遠吠えをした。

すると、住人が出てきて騒ぎ出した。

「オオカミがいる。早く退治しないと」

「そうだな、皆でやれば怖くないかも」

そんな住人の声を聞いて、オオカミの二匹はもう終わりだと思った。

その時

「遅くなったな。私が相手だ」

住人の目の前に現れたのは、大魔王だった。

黒いマントを被った三メートル越えの巨大な角が二本生えた大魔王だった。

「うわっ!大魔王がやってきたー。逃げろ」

住人は一目散に逃げた。

大魔王は、オオカミの二匹の方に近づいてきた。

「よく頑張った。これからは私がずっとそばにいる。安心しろ」

「大魔王様と一緒に暮らせればこんなに安心なことはありません。ありがとうございます」

「最後の二匹になるまで迎えに来れず悪かった」

大魔王はオオカミに謝った。

「私はもう命尽きるでしょう。こいつと暮らしてください」

怪我をしたオオカミは涙を流して言った。

大魔王は怪我をしたオオカミの後ろ脚に息を吹きかけた。

「これで心配はいらん。朝方には治る。朝になったらアジトに帰ろう」

「え、そ、そんなことができるのですか?」

怪我をしたオオカミは不思議に思った。

「わ、治ってきてるわ」

もう一匹が声を出して喜び出した。

大魔王は優しい顔をして喜んだ。大魔王は口を開いた。

「良かった。主人公や人間が言うことも無理はない。あちらも生活が懸かっていてあんなことを言うのだろう。ただ、我々も生活がある。対立した二つの思いは争いを生んだ」

「奪うときも奪われるときもあったりすることを理解できていればもう少し優しい気持ちで相手を見れるのだろうか。ただ、相手の立場を考えるのは冷静に音のない心が必要かもな。私とじっくり考えておくれ」

朝になって大魔王はオオカミの二匹とアジトに帰った。

※この物語はフィクションです。