ショートショート:第二作目書きました。自作小説舞踏会

舞踏会

僕が同僚のダンサーと躍っていると奥の扉がぱっと開いた。

扉の方に僕は自然と注目した。

「本日も宜しくお願い致しますね。今日は連休日でお客様が大勢お越しくださいますから」

「はい、承知いたしました。支配人」

僕を始めとする、同僚達は声を揃えて返事をした。

今日は秋の大型連休でスタッフ一同が首を長くして今日を待っていた。

「書き入れ時がやっときましたね!先輩」

「そうだね、一年目の小谷さんにとっては初めてだね!僕もウキウキしているよ」

小谷は、今年の四月に入ってきたばかりだが、プロのダンサーとしてステージに上がっていた経験があるらしい。

「小谷さんはどういうジャンルで活躍してたの?」

「ジャズです。でも、誰かとペアを組んで世界観を表現することに憧れて転身しました」

「ジャズをやってたんだね、今は社交ダンスはどんなふうに感じてるの?」

「ジャズと違って相手のことも考えて踊るのが新たな自分を見つけることができて楽しいですよ」

「へー!相手のことから自分に視点が向けるってすごいね。素敵な考え方だね」

僕はずっとこの仕事だけをしていたからペアダンスの難しさに囚われていた。相手と自分がいかに華を開かせることができるかだけを考えていた。それがお客様に最高のダンスをお届けすることが出来ると考えていたからだった。

「そろそろ、準備をしないとですね。先輩」

僕と小谷は一旦楽屋に戻って衣装チェックや、最終打ち合わせをした。

開演時間になった。社交ダンスは一時間踊ることになっていた。上演時間は二時間で後半に小劇を舞台俳優達がすることになっている。中休憩を入れても中々ハードなスケジュールだった。

「皆様、お待たせしました。本日はお越しくださいましてありがとうございます。それではお楽しみくださいませ」

司会の挨拶が終わるといよいよ開幕、僕たちダンサーの真剣勝負が始まった。

続き:今日はどれだけの人を魅了できるか

曲が掛かると僕と小谷はステージの中心へとタンゴのステップで躍り出た。

今日はタンゴの定番の一曲で観客を惹きつけようとしている。

いかにロマンチックに恋人を見つめて求めるようにペアと踊れるかが鍵となっていた。

その為に情熱さを表現するために小谷と話し合いを何度も重ねてきた。

今日は一番出来が良いに違いない。小谷が本当の恋人のように僕を誘ってきているように見えた。

でも僕が一瞬でも飲まれてしまうとパートナーは怪我をしてしまい、この雰囲気が台無しになってしまう。それが社交ダンスの恐ろしいところだった。

平常心を保ちつつ、二人のリズムと空気感は壊さないのが腕の見せ所であった。

曲も後半になってきた。

あとちょっとで僕と小谷は素晴らしい情熱で観客を魅了できるだろう。

(締めの大技、成功できるか!)

小谷を受け止めて持ち上げた……

「おー!ブラボー!」

観客の歓声と拍手が鳴った。

僕はほっとして小谷を下ろそうとした瞬間!!!!

「痛い!」

小谷が声を出した。

「痛いです。先輩、もっとそっと降ろして」

「あー!ごめんなさい」

「ダンサーの様子がおかしいので、今から休憩時間とさせて頂きます。後半の劇のお楽しみください」

司会が気を利かせて社交ダンスは打ち切りとなった。

「えー!」

お客様からのブーイングが鳴りやまなかった。

続き:どうなる?ペアの危機

「本当にごめんなさい」

小谷に僕は必死に謝った。

謝っても謝り切れなかった。

「多分大丈夫です。気にしないでください。今からタクシーで病院に行きますからその後で今後のことまた話しましょう。先輩」

小谷はそう言って、僕を責めなかった。

小谷が病院に行っている間、僕は自分を責めていた。

楽屋で小谷からの連絡を待っていると支配人が訪ねてきた。

「今日の事故は何で起こったか分かる?」

「僕の不注意です。申し訳ございません」

支配人はため息を付いた。

「もっとはっきりと具体的に原因を認識しないと改善できないわよ」

「はい……」

「小谷さんが戻ってくるまでしっかり考えること」

「はい。支配人ご指摘ありがとうございます……」

僕は小谷から連絡が来るまで考えた。

「そうか、観客に認められることばかり考えていた。だから拍手や歓声があると気が抜けてしまうのだろう」

僕は、小谷との関係性の改善だけを考えようと思った。

小谷が病院から帰ってきた。

「足は大丈夫でした。捻っただけで何ともないそうです」

「良かった!小谷さんこれからは君のことだけを考えるよ」

「え……。」

「だから、安心して僕に背中を預けて欲しい」

「はい!先輩」

その一年後

僕は何故か小谷と結婚していた。

お終い