ショートショート:自作小説第十一作品目書きました。題名:どら焼き

どら焼き

僕は小学一年生の弟を親の代わりに学童保育へ迎えに行っていた。

早くに中学校から帰っていたので、迎えに行くことが出来たのだ。

本来ならサッカー部だったので、こんなに明るい夕方四時から迎えに行けないはずだった。

しかし、今日退部届を出したので今日から暇になった。

僕は無気力状態になってしまった。サッカーに対してどれだけ努力しても芽が出なかった。

(もうどうでもいいわ)

ふと、横に目をやると和菓子屋さんに目が留まった。

僕は何の気無しにふらふらと店内に入った。

(案外、和菓子ってそんなに高くないのも多いだな)

きんつば、最中、葛餅など沢山の種類があった。

その中でも、大きさの割に安かったのが、どら焼きだった。

高齢の男の店主にどら焼きを一つ注文した。

「毎度ありがとうね。また買いに来てね」

ニッコリ微笑んでくれた。

「今日から暇になったし、また来るよ」

「そういうことなら、いつでも来ていいよ。待ってるからね」

僕は新鮮な感覚になった。

部活では邪魔者扱いにされていたから、こうして誰かに存在を肯定されたのは、中学入学して以来だった。来年の春には中学三年生だから早くから受験勉強するのを決めたので、孤独でもいいと思っていた。

「あ、ありがとうございます。また来ます」

僕は店を出て、弟を迎えに行った。

続き:弟とどら焼きを分け合う

学童保育に着いたら、猛ダッシュで弟が抱き着いてきた。

「遅いよ。僕お腹ペコペコだよ、首が長くなりすぎてろくろ首みたいになるかと思ったよ」

「ろくろ首!お前そんな怖いお化けになるのかよ」

弟は、幼いながらも整った顔をしていた。黒目の大きさはその顔を美形に引き上げているのは誰が見ても一目瞭然だった。

弟はそんな顔して妖怪好きという顔に似合わない趣味を持っていた。

母に言わせるとこの年の子はそういうのが好きな子もたまにいるらしい。

ぼくはもっと明るめのことを趣味にすればいいのにと思ってしまう。

「なぁ、今度少年漫画貸してやるぞ。どうだ?」

「兄ちゃん、貸してくれるの!どんなの?」

「忍者の漫画と、バトル系ならどっちがいい?」

「えー、忍者かな?」

弟は強いて言うならみたいな雰囲気で答えてきた。

「面白いから絶対!お兄ちゃんと一緒に読もう」

「うん、わかった」

「ところで、この紙袋は何?」

「あーこれ?どら焼きだよ。良い雰囲気のお店だったよ」

「あ、商店街だったところの和菓子屋さんかー」

「良く知ってんな。そうだよ」

「課外授業で探検した」

「え、そんなのやってるの?お兄ちゃん時はなかったのに」

「ねぇ、分けてよ」

「え、あ、いいよ。帰ったら食べよう」

「ありがとう」

僕と弟は十分後、家に着いた。

二人で食べたどら焼きは美味しかった。

続き:和菓子屋を再び

今日はこの前のお礼を言いにあの和菓子屋に行った。

「いらっしゃい、本当にまた来てくれたんだね」

「あの、この前はありがとうございます」

「え、何のお礼?」

「この前、また来てと言ってもらえたのに救われました。久し振りに存在を肯定して貰えた感覚になりました」

「ああ、そうだったんだね。良かった、私も礼を言うよ。店を辞めようかと悩んでた時に久し振りのお客さんが来てくれて嬉しかったよ」

「え、そうなんですか!」

店主に礼を言われて驚いた。

「もう少し続けるよ。君が高校生になるまでは少なくてもしようかね」

「え、そんなずっと続けてくださいよ」

「もう、年だからね」

「だから、時々来てね」

「え、はい。毎日来ます」

それから、僕は中学三年になっても毎日通い続けた。

その中で人を呼び込めるために、インスタグラムやフェイスブックを開設するように勧めた。

そうしたら、店主も手伝ったらという条件付きでなれないスマートフォン片手に開設して呼び込んだ。

ハッシュタグの使い方が良かったのか、徐々にお客さんが来てくれた。

僕が高校生になる頃は、バイトを雇うまでに繁盛した。

「進学おめでとう。本当にありがとうね、こんなに活気が戻るとは思わなかった」

「いやいや、佐々木さんが頑張ったからです。僕の話を聞いてくれてありがとうございます」

僕と店主改め、佐々木さんはどら焼きを分け合った。

お終い