未来からの届け物

ここは、さいたま市の古いアパート。
よれた部屋着を着て、髪の毛もぼさっとしている私は、ふと家のポストを覗いてみた。
一通の封筒が入っていた。
封を開けると、手紙らしき紙と指輪が一つ入っていた。
(気持ち悪‼)
内心そう思った、理由は差出人の名前が無かったからだった。
捨てようかどうしようかと悩んだが、一応手紙の中身が気になったので読んでみることにした。
手紙にはこう書かれていた。
【過去の私へ、元気ですか?あの人とは出会っていますか?もしかしたら出会ってないと思ってこの手紙を書きました。くれぐれも会話の選択を間違えないように】
「会話の選択?なんじゃそりゃ!?」
不気味な手紙を引き出しにそっとしまいました。
続き:一年後
私は、友達の紹介で男の人と会っていた。
この頃にはあの不気味な手紙の存在を忘れていた。
「初めまして、かなさん。私は林尚人といいます。今日は宜しくお願いします」
「こちらこそ初めまして、渡辺かなです。今日は楽しみにしてました」
「アフタヌーンティーを食べに行けるなんて夢のようです」
私は尚人さんを見て、最大限のぶりっ子をした。
尚人さんは178センチの身長とすっきりした顔立ちを生かしたオシャレな白色のポロシャツを着ていた。上だけフレームがある藍色のメガネもよく似合っていた。
私は私史上めいいっぱいのオシャレをして、ちゃんと髪型もセットしていった。ロングヘアに一つ結び目をしてそれを垂れ流した。耳には白い大玉のイヤリングを片耳にした。
私と尚人さんは早速店内に入った。
注文をして、アフタヌーンティーセットが届くまでの間、お互いについて話すことにした。
「尚人さんは、休日はどう過ごしているんですか?」
「映画を見たり、友人とサッカー観戦に出掛けています」
「へー、どこまでサッカー観戦に行かれているんですか?」
「大阪や神戸の方に行きます」
「近畿の方に行かれるということは、一泊されますか?」
「ええ、まあ泊りがけになりますね。友人と行くと語ることが山ほどあるから話が付きないですね」
「休日が楽しそうでいいですよね。とても充実しているなと思います」
「まあ、そうですね」
折角、話せることが出来たと思ったのに潰してしまったようで、そのあと沈黙が続いた。
アフタヌーンティーセットが出てきたら、黙々とケーキを食べていた。
尚人さんにお礼を言ってそそくさと帰った。
家に着くと紹介してくれた友達に謝罪して、ベッドで寝た。
続き:あの手紙の正体
私はむくッとベッドから起き上がると、手紙を書きだした。
【過去の私へ、元気ですか?あの人とは出会っていますか?もしかしたら出会ってないと思ってこの手紙を書きました。くれぐれも会話の選択を間違えないように】
そう書いて、子供だましに自分のアパートのポストに入れた。
「こんなの書いても何も変わらないか」
ついでに封筒に指輪を入れて、数日間ほったらかしにしていた。
ここはさいたま市の古いアパート。
よれた部屋着を着て、髪の毛もぼさっとしている私は、ふと家のポストを覗いてみた。
一通の封筒が入っていた。
(気持ち悪‼)
「差出人不明の封筒に手紙と指輪が入っている」
私は、何回もこの経験を繰り返した。
お終い